【観光マーケティングの新手法】西川町のデジタル住民票に隠された真の目的

※当記事は、日本NFTツーリズム協会のパートナーである0x Consulting Groupが運営する、Web3事業開発者向けリサーチ事業「LGG Research」の協力による投稿記事です。



2021年にNFTが話題になって以降、ツーリズム業界においても、NFTの試験的な活用が試みられてきました。

特に、コレクティブルNFTや会員権NFTは旅行業界との相性がよく、地方を巡ることで得られるNFTスタンプや、ゴルフ会員権のようなサービスについて耳にしたことがある人も少なくないでしょう。

しかし、これらの全てが有効的に働いているとは言い難く、NFTが売れ残るケースも少なくありません。

そんな中、西川町で発行した「デジタル住民票(NFT)」が、販売開始後わずか1分で完売し、100枚の枠に対して、13,440名もの入札が入るほどの人気を博しました。

なぜ、西川町のデジタル住民票は、これほどまでの需要が高いのか。そして、西川町にとって、このデジタル住民票はどのようなベネフィットをもたらしたのか。

本記事では、西川町のデジタル住民票の企画および発行を主導した東武トップツアーズ株式会社村井様に伺ったお話を参考にしつつ、西川町のデジタル住民票について考察いたします。

①旅行事業の枠を超え、DXで地方の課題に取り組む “デジタル田園都市国家構想”

 本題に入る前に、西川町が、東武トップツアーズ様と協力してデジタル住民票を手掛けるに至った背景をご説明します。

西川町町長 菅野大志氏とデジタル田園都市国家構想

 西川町の町長である菅野大志氏は、金融庁、財務省、内閣官房で活躍された後に西川町町長になられた経歴の持ち主で、内閣官房時代に地方創生を手がけられていたこともあり、界隈では「地方創生といえば菅野さん」と認識されているほどの方です。

菅野大志氏の経歴はこちら

菅野西川さんの古巣である内閣官房は、“デジタル田園都市国家構想” と銘打つ「デジタルの力で地方の課題を解決する取り組み」を主導しており、 西川町もまた、その取り組みが最も盛んな場としても知られています。

本記事のトピックである “デジタル住民票” は、その文脈上に位置付けられたものです。

地方課題の解決に取り組む東武トップツアーズ

 東武トップツアーズ様は、旅行会社として高い知名度を誇っておりますが、一方で、DXを通じた地方の課題解決に取り組む側面も持たれており、試験的に様々な関連サービスを展開されている企業です。


【東武トップツアーズの観光DXサービス】
①公務員用ChatGPT「マサルくん」
②音声対話型GPT「紫式部」
③話すAIポスター体験
④観光AR
⑤観光メタバース体験
⑥観光ブログを書くAI
⑦自治体NFT
⑧AI人材育成参考:https://www.dx-tobu.com/

この中には、地方創生も含まれており、様々な自治体および企業と提携し、地方創生に取り組まれています。

2023年10月2日には、地方創生について行政・自治体・観光団体・企業が意見を交わす場として「Innovation Oasis(イノベーションオアシス)」を東京品川に開設するなど、積極的な姿勢を示しています。

東武トップツアーズ「Innovation Oasis(イノベーションオアシス)」を開設

このような背景のもと、西川町からNFTに関する打診があり、デジタル住民票プロジェクトを手掛けることとなったのです。

②NFTデジタル住民権で「潜在的な観光客のリスト獲得」を実現

 NFTプロジェクトを評価する際、評価指標の一つとして「NFTの販売益」がよく取り上げられますが、西川町のデジタル住民票の狙いは、販売益ではなく、潜在的な層も含めた観光客の確保にありました。

デジタル住民票の購入者は、多少なりとも西川町に興味を持っている(あるいは、購入したことで興味を持つ)可能性があり、将来的な観光客になりうると考えたのです。

実際、この目論見が当たり、デジタル住民票を購入した人の一部は、西川町に足を運びました。また、西川町までは行けずとも、東京で開催した西川町のイベントには足を運んだ方もいらっしゃいました。

デジタル住民票の売上そのものは、1,000円×100名=10万円と少額ではありますが、そもそもこれまでは、観光客を集めるにはお金を払ってマーケティングすることが当たり前でしたので、デジタル住民票の販売益を得つつ、将来的な観光客リストの収集にも成功したことは、一つの成果と言えるでしょう。

③ツーリズム業界でのNFTの現状|売れ行きは ”誰が売るか” で決まる

 将来的な観光客を集める施策として一定の効果を発揮したデジタル住民票ですが、東武トップツアーズ様によると、同様の施策があらゆる組織で通用するとは言い難いとのこと。

これまで様々な企業や自治体と提携してNFTプロジェクトに関わってきたことで、売れ行きは、企業よりも、自治体が発行したNFTのほうが圧倒的に良いことが見えてきました。
東武トップツアーズ 村井様

 NFTが物珍しさで売れた時代は2022年で終焉を迎え、現在はNFTそのものの価値が問われる時代になりました。その価値として、発行体が自治体であるということが、購入者に受けている状況なのでしょう。

 しかし、今後もそれが続くとは限りません。自治体が発行したNFTでも、価値がないと思われれば購入されなくなります。西川町や山古志村をはじめとするデジタル住民票・住民権を発行した地域やそのNFTホルダーが今後どうなるのかは、注目に値します。

④NFTは「用途」と「所有者との付き合い」がセット

 一方で、企業が発行する場合であっても、魅力的なユースケースを設計できれば、売れる可能性が十分にあります。STARBUCKSやNIKEなど、誰もが知る有名ブランド企業が次々とNFTを発行し始めていますが、彼らのような企業であっても、本当に話題になっているプロジェクトは、ブランドの切り売りではなく、NFTを通じてユーザーに新しい価値や体験を提供しています。

※参考:NFT活用事例|スターバックスの成功とポルシェの炎上を分けたものとは

 人気が出るNFTプロジェクトには、NFTの魅力的な用途や、運営とNFTホルダーの良好な関係構築のための取り組みが設計されています。地方創生の文脈でいえば、西川町の公園の命名権NFTが、オークションにて130万円で落札されています。

西川町HP:『公園の命名権NFT』落札決定しました!

まさにこれは、NFTを活用することで、地方の資産から新たな価値を見出した一つの事例です。

 NFTなどのWeb3の技術は、今までのビジネスモデルを大きく変容させる可能性を秘めており、事業者側にも、これまでの型にとらわれないビジネスモデルの構築が求められています。それができるようになるためには、業界の枠にとらわれず、様々な事例をインプットしながら、多角的な視点を持つことが重要であると言われています。

※無料登録で閲覧できるLGG Researchの “最新Web3事例集” は、毎日Web3プロジェクトの事例を取り上げているので、情報を追うのに便利です。
最新Web3事例集はこちら

⑤まとめ

 西川町のデジタル住民票の事例は、旅行業界におけるNFT活用において、以下のような視点を与えてくれました。

・新しい観光マーケティングの形
・地方の隠れた資産の掘り起こし
・観光客との新たなコミュニケーション

 NFTは、単に販売益を得ることだけでなく、発想次第で様々な効果を発揮しうるものです。また同時に、「組織とNFTホルダーがプロジェクトを共に創る」や「国境を超えたビジネス」というワードも入ってくるため、ビジネスが全く異なる形になる可能性もあります。

だからこそ、まだ正解の見えない今、先陣を切って取り組んだ組織が、この先のロールモデルとなっていくのだと思います。

旅行業界を盛り上げたいという方は、ぜひ一緒に取り組んで行きましょう!

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著者:LGG Research
https://research.lca-game-guild.com/

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